Amazon Web Services ブログ

パナソニック エレクトリックワークス株式会社の新組織立ち上げに向けた取り組み – AI駆動開発ライフサイクルとAI成熟度診断の実践

AI の業務活用が広がる中、多くの企業が次の課題に向き合っています。個別の AI 活用は始まっているものの、組織全体として推進する仕組みが追いついていない。「何から手をつけるべきか」が見えにくい ― そんな声は少なくありません。

パナソニック エレクトリックワークス株式会社(以下、同社)も、こうした課題意識のもとで動き出した企業の一つです。同社は、電気設備を起点に、Well-Being や Energy Management などの新たな価値を創出し、持続可能な豊かな社会づくりに挑戦しています。その中で、ソフトウェア開発領域での AI 活用も積極的に推進してきました。

2026 年 4 月、同社はAI・クラウド開発センター(以下、AICDC )を新設しました。AICDC は「AI 技術活用によるソフトウェア開発に変革を起こし、ソリューション事業を加速する」をミッションに掲げ、活動を開始しています。本記事では、AICDC の立ち上げに向けて同社が取り組んだ AI 駆動開発ライフサイクルの実践 ( AI-DLC Unicorn Gym )AI 成熟度診断 ( AI Foundation Pack ) について、その内容と得られた気づきをご紹介します。

AI 駆動開発ライフサイクルの実践 ― AI-DLC Unicorn Gym

AICDC の立ち上げに向けて、同社は新組織に必要な準備を多面的に進めました。その一つとして、2026 年 1 月に AWS と連携して、 AI 駆動開発ライフサイクル(以下、AI-DLC)を組織的に実践するワークショップ型プログラム「AI-DLC Unicorn Gym」を実施しました。AI-DLC は、AI を開発プロセスの中心に据え、企画から実装までをチーム全員で協働しながら高速に進める開発手法です。同社の企画と開発から計35 名が参加し、4 つのチームが実際のプロダクトや新規サービスに関する課題をテーマに取り組みました。実質 2.5 日という限られた時間の中で、全チームが動作するシステムの初期版を完成させています。

参加した企画部門と開発部門の組織責任者からは、こんな声が聞かれました。

「古来から企画と設計は異なる人種で何かと衝突が起こり、折り合いがつかない場面を数多く目の当たりにしてきました。しかしこの 3 日間で、それが解消する第一歩になったと感じています」

「エンジニアが高度なレベルを要求されることを体感し、仕事の基本に立ち返れたのではないでしょうか。今日が始まりだと思って引き続きやっていきましょう」

AI-DLC の実践を通じて見えてきたのは、AI が開発の中心になることでエンジニアにはより高い技術的判断が求められるようになること、そして企画と開発が一体となってチーム全体で価値を生み出す働き方が可能になるということです。同社にとって、AI 活用がもたらす開発プロセスの変化を実感する機会となりました。

Unicorn Gymの様子 (AI-DLC の詳細については、こちらの Blog をご参照ください。)

AI 成熟度診断の実践 – AI Foundation Pack

もう一つの取り組みとして、同社は 2026 年 3 月に AI Foundation Pack を実施しました。これは、AWS Cloud Adoption Framework for AI(以下、CAF-AI)に基づく成熟度アセスメントを中心とした AWS の Professional Services が提供するプログラムで、今回が日本で初めての実施となりました。同社が、ビジネス目標の一つとして掲げる顧客新価値創造の達成に向けて、ソフトウェア開発領域に焦点を当てて実施しています。

CAF-AI は、プラットフォーム、セキュリティ、オペレーションといった技術面に加え、ビジネス、ピープル、ガバナンスといった非技術面も含む 6 つのパースペクティブから、AI 活用に必要な組織能力を体系的に評価するフレームワークです。

CAF-AIの概念図(CAF-AI の詳細については、こちらの Blog をご参照ください。)

AI Foundation Pack は 2 日間のプログラムとして実施されました。当日の議論を円滑に進めるため、AICDC の部課長等が 6 つのパースペクティブに沿ったアセスメントシートに事前回答しています。 Day 1 では、新組織である AICDC のセンター長、各部長、課長クラスのメンバーや、関連する部門である R&D 、IT の部門メンバーなどのステークホルダーが一同に会し、ワークショップ形式でアセスメントを実施しました。普段は個別に業務を進めている関係者が、AI 活用の現状と課題、目指す姿について同じテーブルで対話することが、新組織の土台となる目線合わせの場となりました。 Day 2 では、アセスメント結果をもとに AWS から施策の方向性とロードマップ案を提示し、参加者全員で優先度を議論しました。

アセスメントで見えたこと

Day1 のアセスメントの結果、同組織の AI 活用は初期段階にあることが確認されました。ただし、これは同組織に限った話ではありません。AWS がグローバルで約 100 社に実施してきたアセスメントにおいても、多くの企業が同様の段階からスタートしています。重要なのはスコアそのものではなく、現在地を把握した上で目指す姿とのギャップを特定し、取り組みの優先順位付けに活用していくことです。また、定期的にアセスメントを実施することで、取り組みの進捗を定量的に把握し、必要に応じて施策の見直しに活かすこともできます。

アセスメントを通じて、同組織の現状が 6 つのパースペクティブで構造的に整理されました。パナソニックグループとして AI に関する規定や方針は示されており、今後の取り組みの方向性を支える土台となっています。一方で、AI 活用における戦略や推進体制、現場で運用できる粒度のガイドライン、人材の役割定義など、組織横断で取り組むべき領域が明確になりました。

優先実施事項を議論する

Day 2 のワークショップでは、アセスメント結果をもとに参加者全員で優先度マッピングワークを実施しました。ビジネス目標への貢献度と実現性の 2 軸で各テーマをマッピングし、「最初の 3〜6 ヶ月で何に取り組むべきか」を議論しました。

この議論の中で、特に優先度が高いテーマとして位置づけられたのが、AI 活用戦略の策定と推進体制の構築でした。まず戦略を定め、それを推進する体制を整えることが、他の施策を進める上での土台になるという認識が共有されました。加えて、人材育成において既存の組織体制の中に AI スキルを組み込んでいく方向性や、AI 活用に伴うガバナンスやセキュリティの整備も重要な論点となりました。

AWS からは他社の事例も紹介され、AI CoE の立ち上げからユースケース展開までの時間軸や、共通する進め方のパターンが共有されました。自社だけでは見えにくい課題の優先度や取り組みの時間軸の目安を得られたことで、より現実的な計画策定に繋がります。
この 2 日間を通じて、まず AI 活用戦略の策定から着手し推進体制を構築していくことが、次のアクションとして明確になりました。

これからの AI・クラウド開発センター ― 益子部長インタビュー

2026 年 4 月に新設された AICDC で、クラウドソリューション開発と AI 活用推進を担当する益子部長にお話を伺いました。

― AI Foundation Pack では、ステークホルダーが一同に会してアセスメントと優先度の議論を行いました。この 2 日間を通じて、特に価値を感じた点はどこでしたか?

価値を感じたのは、AI 活用の目指す姿とレベル感を関係者全員で共有できたことです。

もし AI Foundation Pack がなかったら、AI 駆動開発の標準化と育成しかやっていなかったかもしれません。中期計画に書かれた項目を、各自が重要だと思うものから個別に進めるだけの状態が続いていたと思います。今回、CAF-AI のフレームワークを使うことで、AI 活用に必要な能力や体制、目指す姿、活用レベルを関係者全員で認識合わせできました。また、プログラムの事前準備を通じて、新組織が担うべきミッションの範囲を社内関係者とすり合わせられたことも良かったです。Day 2 では優先度を議論し、まず小さく PoC から始めて標準化へと進むステップを合意できました。自分たちのレベルに合った進め方を、センター長を含めた全員で議論して決められたことに、大きな意味があったと思っています。

― AICDC が始動しました。今後の取り組みへの思いと、AWS への期待をお聞かせください。

AI やデータをしっかりと使いこなせる組織にしていきたいです。そのために、AWS には引き続き伴走していただきたいと思っています。アカウントチームや Professional Services のメンバーに伴走していただくことで、課題や取り組みに対する支援はもちろん、第三者視点でのレビューや助言をいただけることが大きなメリットだと感じています。アカウントチームとの接点を多く持てており、当社への理解が深まっていると感じているからこそ、今後も当社のビジネスの背景や課題、AICDC のミッションを理解した上での提案を期待しています。

また、グローバルで活動されている AWS だからこそ知っている最先端の知見を共有いただき、私たちもキャッチアップしていきたいです。サービス面でも、業務がより楽に、より安全に進められるものをこれからもどんどん出していってほしいと思っています。

後列 左から2人目より… AICDC 益子氏、向井氏、川本氏

まとめ

AI 活用をビジネス成果に繋げていくためには、個別のツール導入や PoC だけでは十分ではありません。AI 活用における戦略と目標を策定し、経営陣を含めた関係者間で合意して進めていくこと。そのためにまず、自社の現在地を客観的に把握し、「何から始めるか」を議論することが重要なステップになります。同社の取り組みが、同じ課題に向き合う企業の皆様にとって何かの参考になれば幸いです。

AICDC(AI・クラウド開発センター)の挑戦はまだ始まったばかりです。AWS は、AI-DLC による開発プロセスの変革支援、AI Foundation Pack による成熟度アセスメントと戦略策定の伴走、そして様々な Coding Agent の活用支援を通じて、パナソニック エレクトリックワークス社の AI ネイティブなエンジニア組織への変革をこれからも共に歩んでまいります。

パナソニック エレクトリックワークス株式会社の企業ページはこちら

著者について

 

佐山 朝葉 (Sayama Asaha)
ソリューションアーキテクト
製造業のお客様をご支援しています